日本は、レアメタルの主要な供給国である中国とのさらなる関係悪化にそなえ、自国の市場を守る「保険」を準備している。日本の複数の企業が、インドとマレーシアでレアメタルを採掘する計画を進めているのだ。ロシア科学アカデミー極東研究所のワレーリイ・キスタノフ所長の分析を紹介しよう。
インドのナレンドラ・モディ首相の日本訪問で、日本の複数の企業がインドでレアメタル採掘を行う計画に「青信号」が示された。需要の15%にのぼるレアメタルをインドで採掘する、という計画だ。現在日本は輸入の9割を中国に頼っている。そのことで苦い経験をした日本は、輸出先を可能な限り多角化しようと努めている。キスタノフ氏のコメントを引こう。
「2010年、東シナ海の(尖閣諸島をめぐる)一件を受けて、中国はレアメタルの対日輸出を停止した。これは痛撃だった。
日本はかわりとなる輸出先を世界中で探し求めた。アフリカでも中南米でもアジアでも、海底からも。
そんな日本がいまインドとマレーシアに活路を求めている」
インドに加えてマレーシアとの合意も成立すれば、やがて2018年には、中国以外からの輸入は6割を超えるようになる。
しかし、マレーシアとの協力には、高いリスクがともなう。この国では環境学者がらみのスキャンダルが絶えない。
今も日本政府の出資でマレーシアにおけるレアメタル採掘を行おうとする豪州企業Lynasの工場に、国内の環境学者たちから反発が上がっている。マレーシアでは1992年にも、やはり深刻な環境問題によって、日本の民間投資で建てられたレアメタル工場が閉鎖されている。以来15年間、日本は環境破壊の賠償金を支払い続けることになった。
中国が目下レアメタルの採掘量を減らしており、輸出に占める割合が低まっているのも、中国自身に言わせれば、やはり環境問題がその理由である。
しかしWTOはこの主張を退けている。WTOは今春、中国はレアメタル貿易の国際規範に反している、との非難を行った。
原告は日本と米国、EUである。対して中国は、検討するとは言いながら、そのレアメタル輸出量は横ばいのままである。
日本はこれを憂慮している。
再びキスタノフ氏。
「日中関係が今後どうなるかは予断を許さない。現状は慢性的な緊張、といったところだ。11月のAPEC北京サミットで安倍晋三と習近平の会談が実現すれば、いくらか関係が改善するだろう。会談の成立自体は疑わない。中国も日本との対話を拒否できない。APECサミット初の中国開催である。
それをスキャンダルで曇らせたくはなかろう。しかし、会談が形式的なものに終わる可能性はある」
JOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)は中国依存を脱するべく、ウズベキスタン、カザフスタン、トルクメニスタン、キルギス、タジキスタンにおけるレアメタル調査に7億ドルを投じるという。しかしこれらの国へは既に中国企業が進出済みだ。日本は外国市場でも中国の巨大な影響力と衝突することになる。